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東京地方裁判所 昭和49年(レ)24号 判決

控訴人 塚田栄一郎

被控訴人 斉藤重男

主文

一  本件控訴中原判決主文第二項に対する部分を却下する。

二  原判決を次のとおり変更する。

被控訴人と控訴人との間において、被控訴人が控訴人に賃貸している別紙物件目録記載の土地の賃料は、昭和四七年五月一日以降月額金四六〇〇円であることを確認する。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一  被控訴人の請求原因

1  被控訴人は別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有者であるところ、昭和二二年五月控訴人に対し、右土地を普通建物所有の目的で賃貸し、その賃料は同四五年五月以降月額金三七三四円となつた。

2  ところが、右賃料はその後の本件土地の地価の高騰、公租公課の負担増などにより不相当なものとなつた。

3  そこで、被控訴人は控訴人に対し、同四七年四月二二日到達の書面をもつて、本件土地の賃料を同年五月一日以降月額金五二二五円とする旨の意思表示をした。

4  しかるに、控訴人は右増額請求の効果を争う。

よつて、被控訴人は控訴人に対し、本件土地の賃料が昭和四七年五月一日以降月額金五二二五円であることの確認を求める。

二  請求原因に対する控訴人の認否

1  請求原因1の事実のうち、控訴人が昭和二二年五月、被控訴人から本件土地を賃借したことは認めるが、同四五年五月以降の賃料が月額三七三四円であることは否認する。本件土地の賃料は不明である。

2  同3、同4の事実はいずれも認める。

三  控訴人の主張

被控訴人は、本件土地の所有権を失つたか、或いは本件土地の賃貸権を消滅時効により喪失し、控訴人が本件土地を取得した。したがつて、控訴人と被控訴人との間には賃貸借関係は存しない。但し、被控訴人が右所有権、賃貸権を失つた時期を明らかにする必要はないし、控訴人が本件土地を取得した時期を確定することはできない。

控訴人のその他の主張は別紙控訴理由書、昭和五〇年六月二〇日付、同年七月一日付各準備書面記載のとおりである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  被控訴人が控訴人に対し、昭和二二年五月本件土地を普通建物所有の目的で賃貸したこと、同四七年四月二二日到達の書面をもつて本件土地の賃料を月額金五二二五円とする旨の意思表示をしたこと(以下「本件増額請求」という。)、控訴人が本件増額請求の効果を争つていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一ないし第四号証、原審における被控訴人、当審における控訴人各本人尋問の各結果、原審における鑑定人丸山皓録の鑑定の結果および弁論の全趣旨を総合すれば、本件土地の賃料は、同四五年五月一日以降従前の賃料を改訂して月額金三七三四円になつたこと、翌四六年六月初めころ、被控訴人は控訴人に対し本件土地の賃料を月額金四九七六円に増額する旨の意思表示をしたが、控訴人はこれを不当として争い、更には賃料の支払いを拒絶するに至つたこと、右賃料増額をめぐる争いは解決をみないまま昭和四七年四月までの期間が徒過されたが、被控訴人は同月二二日改めて本件増額請求をなしたこと、昭和四五年以降本件土地を含む土地の価格の高騰は著しく、それに伴い右土地の公租公課も毎年増加し、本件土地の近隣の地代等も昭和四七年当時においては相当高額になつていたこと、したがつて、昭和四五年以降の右のような経済事情の変動の結果、少なくとも同年改訂された本件土地の賃料は不相当となるに至つたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、控訴人の主張は、要するところ、控訴人と被控訴人との間の本件土地賃貸借はその後終了したことにより、被控訴人がその賃料の確認を求めることは確認の利益を欠くというにあると解されるが、右賃貸借の終了原因たる具体的事実については控訴人が何ら主張しないところであり、本件全証拠によるも右賃貸借が終了したことを認めることはできないから、被控訴人の主張は採用の限りでない。

二  そこで、被控訴人のなした右増額請求に基づく相当賃料額をいかに定めるべきかについて検討する。

1  土地賃料が土地使用の対価であることはいうまでもなく、その適正額の算定にあたつては、次の方法、すなわち、当該土地の価格(但し、その内容については後述)を賃貸人が投下した資本額と考え、これに一定の利潤率を乗じ、これに当該土地に対する固定資産税、都市計画税、管理費等の必要経費を加算したものをもつて原則的な賃料(年額)としたうえ、当該土地に関する当事者間の他の賃貸借の条件および従前の賃貸借の条件等の主観的事情、さらには不動産賃借権の保護という社会法的理念を考慮して適正な修正を施すという方法によることができると解すべきである。

(一)  まず、基本となる元本価格については、更地価格(ないしは建付地価格)を用いるか、底地価格を用いるかにつき、意見の分れるところであるが、建物の所有を目的とする借地権の効力が強化された現在、賃貸人が借地権の制約を意のままに排除して、その完全な交換価値の実現を図ることはほとんど不可能といつてよく、取引界においても借地権の制約に応じた価格で取引されるのが実情であることを考慮すれば、いわゆる底地価格をもつて投下資本額とみなすのが現実的かつ妥当である。

(二)  次に利潤率についてみると、不動産賃貸借においては、元本ともいうべき土地が滅失するということはほとんどあり得ず、性質上減価償却ということもないうえ、貨幣価値の変動による影響を受けにくいという特性を有しているから、金融市場、株式市場における利廻りが貸倒れまたは値崩れの危険をおりこんで設定されているのに比して、土地の利潤率はこれを低く定めても支障はない。なお、昭和四〇年代に入つて、賃貸人の投下資本である土地の価格は異常な高騰をみせたが、この地価騰貴は土地の価値の相対的上昇に基づくものというより、投機的要因によつて形成された思惑的価格が含まれていることは公知の事実であるところ、かかる思惑的価格部分は、継続賃料の算定という観点からみるかぎり、賃借権保護の理念から、この部分に対応する賃料額が相当賃料額に紛れ込むことを抑圧する必要がある。しかし、この部分と正常価格部分との区別が困難な現状においては、不動産投資における利潤率を極力低く抑えることによつて合理的調整を図る外はない。ところで、前記鑑定の結果によれば、継続賃料の算定にあたつては、不助産投資の利潤率を一ないし二%とするのが鑑定実務の近時の慣行であることが認められる。これらの諸点を考慮するときは本件土地の利潤率は年一・五%とみるのが相当である。

(三)  更に必要経費についてみれば、まず固定資産税、都市計画税は前者が本来土地の所有に対して課せられるものであり、後者は都市計画の実施によつて賃貸人、賃借人の双方が利益を享受するものであるから、いずれも賃借人のみの負担に帰せしめる筋合ではないが、今日では不動産の交換価値の相当部分が借地権または借家権として借主に帰属していること、借地法一二条が公租公課の増加を賃料増額の一原因としていること、地代家賃統制令五条一項が、固定資産税、都市計画税の全額を統制賃料に加算する旨規定していることにかんがみれば、前記公租公課の全額を賃料に加えることもあながち不当なものとはいえないであろう。また、賃料の集金に要する費用土地の現状維持費その他不動産賃貸借に伴つて派生する諸経費(管理費)は、いずれも直接、間接賃借人の利益に帰するものであるから、これらをその負担に帰せしめても不合理ではない。

2  以上の考察に基づいて、本件土地の適正賃料につき前記鑑定の結果を徴しながら検討する。

まず、成立に争いのない甲第二号証、前記鑑定の結果によれば、本件土地の地積は三一・〇〇坪(一〇二・四七平方メートル)であること、昭和四七年五月一日現在の本件土地の価格は三・三平方メートル当り金三三万円であることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない(なお、同鑑定の結果によれば、昭和四七年度における本件土地の固定資産評価額が三・三平方メートル当り金七万四八六八円であることが認められるが、右価格は別個の目的から算出されたものであるから、これをもつて本件土地の時価とすることはできない。)。したがつて、右同日における本件土地の更地価格は、金一〇二四万七〇〇〇円である。次に、当審における控訴人本人尋問及び前記鑑定の各結果によれば、控訴人は本件土地上に建物を所有しており、同土地のいわゆる建付価格は前記更地価格の九五パーセントに相当し、更にその底地価格は右建付価格の三〇パーセント(前記更地価格の二八・五パーセントに相当する。)である金二九二万〇三九五円を相当とすることが認められる。

次に、右底地価格金二九二万〇三九五円に前記利潤率年一・五パーセントを乗じて純賃料(年額)を算出すると、金四万三八〇六円(円未満は四捨五入、以下同じ。)となる。更に、前記鑑定結果によると、昭和四七年度の本件土地の課税標準調整額は三・三平方メートル当り金二〇万四五〇三円であることが認められるから、右調整額および前記本件土地の地積に基づいて、地方税法の規定に従い、同年度の固定資産税額、都市計画税額を求めると、右税額の合計は金一万二一七四円(年額)となる(なお、前記鑑定の結果によると、本件土地の三・三平方メートル当りの右税額の合計額(年額)は金四九二円とされているが、これは計算違いであつて年額金三九二円が正しい)。また、管理費については、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、本件土地賃料は持参払いとする旨の約定があつたことが認められるから、管理費中最も大きな割合を示める賃料取立費は不要であつて、これを除外して考えると、純賃料額と公租公課額(いずれも年額)の合計額の二パーセントである金一一二〇円を管理費として計上するのが相当である。

よつて、本件土地の原則的な賃料(年額)は、純賃料、公租公課、管理費の合計額金五万七一〇〇円(月額四七五八円)となる。

そして、前記認定のように、控訴人は昭和二二年来本件土地を賃借していること、前記乙第一、第二号証、原審における被控訴人、当審における控訴人各本人尋問の各結果によれば、本件土地の賃料は昭和四四年、同四五年と連年増額されていることが認められること等被控訴人、控訴人間の主観的事情を考慮して、右原則的賃料に若干の修正を施し、月額金四、六〇〇円をもつて本件土地の適正賃料とみるべきである。

三  そうすると、被控訴人の本訴請求は、本件土地の賃料が昭和四七年五月一日以降月額金四六〇〇円であることの確認を求める範囲において正当であつて、その限度でこれを認容すべく、その余は失当であつて棄却を免れないから、これと結論を異にする原判決を一部変更することとし、なお、控訴人は原判決中控訴人勝訴部分についてもその取消を求めるものであるが、右の部分に対する控訴は控訴の利益がないことが明らかであるから、その限度で本件控訴を却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、九二条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大和勇美 上村多平 小池信行)

(別紙)物件目録

東京都荒川区荒川五丁目三三番三号

宅地 五八五・〇九平方メートルのうち

一〇二・八〇平方メートル(別添図面中「塚田氏」と表示してある部分)

(別紙)図面〈省略〉

(別紙)控訴理由書

一 原裁判は、本件の例外的深刻性を認めず一般類似事件と混同し、怠る審理に誤りがある。即ち、判決付言の部の法定更新云云の処。その法定更新(昭和四二年)頃は既に従来の賃貸借契約は割れていたその割れてる処法定更新したもので割れが一層割れ、自然消滅的運びとなつていたものである。つまり、その後被控訴人が控訴人に対して貴殿の賃貸借契約はない旨の通知を事毎にして来てるのがそれで、その山と見られるのが昭和四六年五月、通知人は従来貴殿の賃貸借契約はないと主張してる。しかし、若し万一貴殿があると思うなら仮定して、賃料値上げしたからその額で供託してくれ。と云う旨の通知よこした事、である。この時に控訴人は決意して本件土地は被控訴人から借りてるのではない。としてその旨被控訴人に通知、と共にその内容の明確化を要求催告してた。その催告五六回に答えず昭和四七年四月、賃料値上げしたからその値上げ額で持参しないと賃貸借契約を解除する旨の通知よこした。控訴人はそれに対して、何を言うか、それより賃貸借契約がないと云うその方をはつきりしてくれ、と云う返答しといた。その処同年一二月被控訴人は提訴した。

一 原初公判のいきなりの尋問は、原告所有の土地を借りているか借りていないのか。-については、被告が今住んでいる土地は原告から借りているのではない。と答え、被告は原告と賃料の事で争つていない。と陳述してる。それに対して被控訴人は、借りてないと言いながら、賃料供託してるのはおかしい、借りてないなら賃料供託の必要はない。と言うので控訴人は別に借りてるからしてるのではなく、事がきまりつくまでの暫定措置なので、早速しない事にすると言明して以後賃料供託はしない。その事について再度準備書面で承認求めてるが、今回の控訴に於いて、被控訴人と全く賃借関係がなくなつた本件土地の占有使用の確認を求める。

一 証拠。被控訴人は第一号証(甲)提出し、それに対し控訴人は全体が証拠、被控訴人から借りてるのではない。と云う事、賃料で争つていな事総体として真実が何よりの証拠。真実は、永遠且つ世界全体の人間万物の生命生活元であり、又虚妄、悪等を排した善一乗の事実に依るものである。これが控訴人の存在であるが本来の裁判的の存在でもある。処が原裁判は真実がない。被控訴本人の証言、あれは真実ではない。それをそのままだまつて認めてる事はその裁判が真実でない証である。その判決が控訴人の具体的証拠である。真実は平和で裁判の当事者ではない裁判する例である。それをはつきりするのが控訴で原裁判を裁いて明確にする事である。原判決が如何に勝手に作られてるかは、被控訴人の権利の濫用的に加えて同代理人が又職権の濫用、その上に裁判官が職権をきかせすぎてるような処がある。

(別紙)準備書面(第六回)

控訴人の本件土地占有使用は、自然法に依つて確立し、又自然法の具現である真実事実で結ばれてるもので、被控訴人から借りているのではない、と云うその存在そのものが絶対的な証拠で、他にそれ以上の証拠はない。その事を知らず、他に証拠がないからと云う事で否定してかかるのは間違いである。その間違いを裁判所はしてるように思う。でなかつたら敗訴になるわけない。とにかく被控訴人から借りているのではない。と云う事は、真実事実であつたからなつたものでありその事あつて自然法の在り方が分かつてきたわけである。でなければ分からない。とにかく被控訴人から借りているのではない。と云う事は真実事実で、本人尋問はそれだけ簡単にやつとけばいいので、先月一三日の裁判の時裁判官が申請事項はずい分簡単だがもつと細かくやらなくてもいいのかと言われた時簡単でいいですと云つてあるのに申請事項はやらず他の細かにやつてわけが分からない、あれでは真実事実のない事で控訴人は玩ばれている様なものであり無効申請します。

(別紙)準備書面(第七回)

一 要約して本件賃料確認請求の訴えはその訴状に見る通り賃貸借状態が不明瞭である。然し被告が賃借していればそれでも宜しいわけで、裁判官は被告に、被告は原告所有の土地を借りているのか借りていないのかと尋問した、被告は速答にためらつたが別室に行き司法委員仲にしての対談で少しずつ分かつて後日書面で、被告は原告の土地を借りているのではない、と答え、その際被告は原告と賃料その他で争つてはいない、と陳述している。そして第二回目の司法和解で、原告は被告に、借りていないで賃料供託してるのはおかしい、借りているのでなかつたら供託する必要はない、と言うので被告は、借りているからしてたのではなく事がきまりつくまでの暫定措置でしてたものだから早速止めると言明して止めた。それで両者間の賃貸借関係はすつかりなくなつたわけ。

一 それに対して原審は、被告は原告から賃借してること、として裁判を進めて判決してる。その裁判は、-原告及び裁判所が自己の都合上で被告として塚田を呼びだし都合よく場ごしらえした処で都合よく尋問ししやべらせて都合いい処だけ取り上げ都合悪い責任はなすりつけ自己の都合いいように作り上げてるものである。-そこには塚田の生きがいも全部原告側の都合いいようにされる以外ない、人権も自由も殻だけ持たされ中身は取り上げられ、適当にあてがいぶさでやられる、昔から原告はその様にするべ塚田に仕掛けてたもの、郷に入つたら郷に従えとかのたとえの如くであるが、塚田は一般とは全く違つて従う、自然法真実事実に身を委ねて、何事もその自然法真実事実で受けとめているのでその方で処理される。原告が裁判所法律に委ねているように、つまり原告が塚田の処理を裁判法律に委ねてるように塚田は自然法真実事実に委ねて処理もその方でしてるわけ、先方が自然法真実事実を疎外してたらその言行は無効で益がない。それを知らず有効で益ありとしたらそれだけ欠損になつてる、つまり原告が裁判所に訴えて裁判所がその訴え通り先きに述べたように塚田を自己の都合いいように扱えばそれだけあべこべになる、即ち自己がその身柄になると云う事である。

一 本件塚田の占有使用する本件土地は原告から借りているのではない、それは自然法真実事実のもので、争う余地ない正しい事であるが、原審裁判ではそれをのけといて原告から賃借してること、と勝手に変えてる、それは推測でしてるらしいが何を証拠又は根拠にしてるのかはつきりしてない、大体大戦後現代に於ける法律は、生命を守るに足るものではなく一つの仕方方法程度の価値で、自然法と同系視しては有害である、即ち暴力の先棒かつぐ状態にあるからで、原審が原告の訴えなりに塚田に向かつて裁判してる事そのやり方が当然真実事実を無視してるもので無法暴力系である。学問や技術で自然法の真実事実を創作する事はできない、何ものの侵害も受ない基本的人権はその自然法真実事実に依つてのみ守れるものである。

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